前回の記事でも書いたように、古本屋で中古品を仕入れて売却してお金を稼ぐ「せどり」をする場合には、古物商の許可が必要です。
しかし、普通は、物を売ったり買ったりするのは自由にできます。スーパーでお菓子を買うのに、国の許可が必要が必要という話は聞いたことがありません。
そこで、「なぜ古物売買をするために許可が必要なのか?」の解説を通して、前回の記事の補足をしたいと思います。
古物商の許可はなぜ必要?
なぜ古物を売買するのに、許可を取らないといけないのでしょうか?
答えは、古物営業について規定する古物営業法の第1条(目的)に書いてあります。
第一条 この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。
分かりやすく言うと、「万引きされた商品や盗まれた物の売買・換金を未然に防いだり、すぐに発見できるようにするために、古物の売買には許可制などの規制をします。それによって、万引きや犯罪を防止したり、盗品を早く持ち主に返したりできるようにします」ということです。
なぜ他人のものを盗むのか?
「その物が欲しかったから」だけでなく、「換金してお金を稼ぎたかったから」という人も、かなりの割合で存在します(参考:平成26年版 犯罪白書)。
空き巣に入って、貴金属や腕時計・装飾品を盗む場合、それ自体が欲しいからと言うよりも、売却してお金に換えることが目的でしょう。
そこで、盗品の売却ルートを押さえて、「誰が、いつ、どこで、何を売ったのか」を把握できるようにすれば、盗品を売ってもすぐに足がついてしまうので、盗品を換金することが難しくなります。
換金できないのであれば、わざわざリスクを冒して盗みをする理由がなくなります。
盗品換金の手段である古物売買を許可制にして、警察が売買を把握できるようにすることで、窃盗を防止しようと考えているわけです 1。
同じく盗品の売却先を把握することができれば、被害者の元に盗品が返ってくる確率も高くなりますね 2。
このように、古物営業法は、古物売買を許可制にすることで、国民を窃盗などの被害から守ろうとしているのです 3。
せどり許可不要説の根拠は、古物営業法第1条!?
インターネットで「せどり 古物商」と検索すると、「せどりをするのに古物商許可は必要なの???」というページがたくさん出てきます。
そして、「せどりに古物商許可は不要である」という見解も多く見かけます。
古物営業法の条文を読んでも、「せどりの場合は許可が不要」という例外はないのに、なぜ不要と考えるのか?
その根拠が古物営業法第1条の条文なのです。
古物商に許可が必要なのは、窃盗犯などが盗品等を自由に売って換金することを防止するためです。
逆に、古物買取りの相手が窃盗犯でないと明らかに分かる場合は、許可が不要と考えることが出来そうです。
例えば、全国にチェーンを構える大手中古ショップであれば、身許はハッキリしていますし、わざと盗品を売ってくることもないでしょう。また、お店の方で、古物を買取る際に本人確認等を行っているはずので、盗品等がノーチェックで流通する可能性も低いでしょう。
したがって、古物仕入れを、個人ではなく、大手チェーン店等で行うのみであれば、古物商の許可は不要だと考えることができます 4。
しかし、仕入れた古物の転々売買が想定され、店舗で購入する場合も取引記録を残して、できる限り盗品(のおそれがあるもの)を追跡可能な状態に置くメリットや、条文の文言を考えると、現行法では古物商許可を要するとすることが妥当だと考えます 5。
何より、万が一、警察の捜査要請があったときに「無許可営業でした!」と無用なトラブルを引き起こす必要もない 6わけで、せどりを考えている方は古物商許可を取得することをおすすめします。
自分で手続するならおおよそ2万円で許可を取得でき、氏名や住所の変更等がない限りは新たな届出や更新の必要もない一生使える許可なので、収益を考えると決して高くはないと思います。
ご不明な点、ご相談、ご依頼のある方はお気軽にお問い合わせください。(初回相談無料)
【松葉会計・行政書士事務所】
担当行政書士:松葉 紀人
お電話:(0863)32-3560
◆脚注◆
- 古物商は、古物を買取る時に売却する人の本人確認や帳簿記録の義務があり、警察から窃盗事件などの捜査の申し出があった場合は、協力する義務があります。 ↩
- 古物商は、買取った古物が盗品や落し物であった場合には、被害者等から請求があれば、無料で(競売で買取った場合は有料で)返還しなければなりません。 ↩
- 最判昭和28年3月18日刑集7巻3号577頁も同様の趣旨です。 ↩
- さらに、無許可の古物営業には罰則がある刑罰規定なので、刑法における謙抑主義の観点から、許可を要する場合を、必要最小限の場合に限定解釈すべき、という価値判断があります。 ↩
- インターネットオークションの発展など、古物営業法の制定当時には想定していなかった事態が多くありますから、時代に合わせた法改正がなされるべきと思っています ↩
- 無許可営業は3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。 ↩