古物商の許可は警察に申請すれば取得できますが、許可さえあれば自由に営業できるわけではありません。許可取得後の営業をするうえで守るべき3つの大きな義務が法律で定められています。
いざ営業を開始する段になって慌てないように古物商三大義務の概要を解説します。
三大義務
1.本人確認義務
どんな義務?
古物商が古物の買取りを行うときは、買取相手の住所・氏名・職業・年齢の確認(本人確認)を行う義務があります 1。誰が売ったか特定することで、万引きなど盗品の換金に利用されることを防ぐためです。
古物の買取時のみで、売るときには本人確認の必要はありません。買取総額1万円未満であれば原則として確認義務はありませんが、書籍やゲームソフトなどは価格に関わらず買取時に本人確認する義務があります 2。
確認は法令で定められた方法により行う必要があります。詳細はこちらの記事でも解説しています。
違反した場合は?
買取時に本人確認をしなかったり、確認しても適切な方法を取らなかった場合には、許可取消しや営業停止命令が下されたり 3、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金、情状によりその両方が科されるおそれがあります 4。
2.取引の記録義務
どんな義務?
古物の売買をしたときは取引の情報を古物台帳などに記録し、その記録を最終記録日から3年間保存する義務があります 5。
記録すべき内容は法律で決められています。
(1)取引の年月日
(2)古物の品目及び数量
(3)古物の特徴
(4)相手方の住所、氏名、職業、年齢
(5)本人確認の方法
都道府県の防犯協会で古物台帳を購入できると思いますが、同じ様式のものをExcelなどで自作しても構いません。
古物を買取るときは本人確認義務を免除される一部の取引を除き、すべての取引について記録義務があります。
他方で古物を売ったときは、美術品類や時計・宝飾品類、自動車・バイクを売却したときのみ記録する義務があります 6。
違反した場合は?
取引記録を作成しなかったり、虚偽の記録をしたり、取引記録の保存をしなかった場合には、許可取消しや営業停止命令が下されたり 7、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金、情状によりその両方が科されるおそれがあります 8。
3.不正品の申告義務
どんな義務?
古物の買取時に、不正品(盗品など)の疑いがあると思われる場合は、直ちに、警察官にそのことを通報する義務があります 9。
盗品の流通を防ぐため、不正品を買取ることはできません。法律用語の「直ちに」は最も即時性の強い言葉なので、「おかしい」と思ったら買取を中止して、その場で通報する必要があります。
買取時に気づかなかった場合でも、不正品の疑いが生じた場合には放置せずに警察に相談しましょう。
違反した場合は?
不正品の疑いがあるにも関わらず漫然と買い取ったり、警察官に申告をしなかった場合には、許可取消しや営業停止命令が下されるおそれがあります 10。
また、古物が盗品であると認識 11しつつ預かったり、買い取った場合には盗品保管罪や盗品有償譲受け罪が成立し、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金が科されてしまいます 12。
その他の義務は?
三大義務のほか古物商が守るべき義務としては、
・変更の届出(法7条)
・名義貸しの禁止(法9条)
・行商時の許可証携帯(法11条)
・標識の掲示(法12条)
・品触れ、立入調査などの警察への協力義務(法19条、22条)
などがあります。
また宝石・貴金属類の現金取引をする場合には、犯罪収益移転防止法(GK法)による本人確認義務が課されることもあります。
せっかくお金と時間をかけて取得した許可を取り消され処罰されることのないよう、古物商の果たすべき義務を知り、違反しないように気を付けましょう。
◆脚注◆
- 古物営業法(以下では省略して「法」)15条1項。 ↩
- 法15条2項、古物営業法施行規則(以下では省略して「規則」)16条。 ↩
- 法24条 ↩
- 法33条1号、36条 ↩
- 法16条、18条。 ↩
- 法16条但書、規則18条1項。 ↩
- 法24条 ↩
- 法33条1号・2号、36条。 ↩
- 法15条3項。 ↩
- 法24条。 ↩
- 「間違いなく盗品だ」という確信がある場合だけでなく、「盗品かもしれないが構わない」という”未必の故意”であっても盗品関与罪が成立します(最判昭和23年3月16日刑集2巻3号227頁参照)。故意の有無は様々な供述や証拠から推測しますので、「この場合はどうか」を一概に断定することはできません。 ↩
- 刑法256条2項。盗品と知りつつ無料で引き取った場合には3年以下の懲役となります(同256条1項)。 ↩