古本屋やブランド品買取店で物を売ろうとすると、身分証の提示やコピーを求められます。しかも、身分証がない場合は買取を拒否されることもあります。
身分証には重要な個人情報が記載されていますから、誰彼構わず見せるべきものではないのに
「なぜ身分証を見せなければ、買取をしてもらうことができないのか?」
「お店はなぜ買取時に身分証の提示を受けることができるのか?」
以下で解説していきます。
古物営業法で義務付けられているから
古物営業法の規定
お客さんから中古品(使用済の商品)や新古品(未使用の商品)を買取って商売する人を「古物商」と言いますが、古物商の権限や義務は古物営業法という法律で決められています。冒頭の古本屋や買取店は古物商です。
そして古物商は、中古品などの買取時に客の住所・氏名・職業・年齢を確認しなければならないと決められています。
古物営業法
第十五条 古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとするときは、相手方の真偽を確認するため、次の各号のいずれかに掲げる措置をとらなければならない。一 相手方の住所、氏名、職業及び年齢を確認すること。二 相手方からその住所、氏名、職業及び年齢が記載された文書(その者の署名のあるものに限る。)の交付を受けること。三 、四号(省略)
相手方(お客)の氏名等の確認は、運転免許証・保険証などの提示を受けるか、相手方以外の者(相手方の家族や職場など)に問い合わせることで確認する必要があります。
第十五条 法第十五条第一項第一号 の規定による確認は、身分証明書、運転免許証、国民健康保険被保険者証等相手方の身元を確かめるに足りる資料の提示を受け、又は相手方以外の者で相手方の身元を確かめるに足りるものに問い合わせることによりするものとする。2 法第十五条第一項第二号 に規定する署名は、当該古物商又はその代理人、使用人その他の従業者(次項第七号及び第四項において「代理人等」という。)の面前において万年筆、ボールペン等により明瞭に記載されたものでなければならない。この場合において、古物商は、当該署名がされた文書に記載された住所、氏名、職業又は年齢が真正なものでない疑いがあると認めるときは、前項に規定するところによりその住所、氏名、職業又は年齢を確認するようにしなければならない。
ですから、古物商は買取時に身分証の提示を求め、仮に本人確認できないのであれば買取りすることができません。お店は意地悪で買取拒否しているのではなく、買取ることができないから拒否せざるを得ないわけです。
そして、本人確認の義務があるので、お客から身分証の提示を受ける権限もあるということなのです 1。
疑問:身分証以外の確認方法
「でも、家族に問い合わせて確認する方法や、氏名等の記載された署名文書を渡す方法もあるはずだ。身分証がなくても買取りできるのでは?」という疑問を持った方がいるかもしれません。
たしかに、古物営業法には、家族などに問い合わせて目の前にいる人が本物か確かめたり(規則15条1項)、お店でお客に氏名・住所などを用紙に自筆で書いてもらい確認する方法 2(法15条1項2号)も定められています。
しかし、古物営業法は、上記の方法のいずれかで本人確認する義務を定めているだけで、どれかの方法がダメなら他の方法を選択する義務を定めているわけではありません。つまり、法令に従った方法なら、どの方法を用いるかは古物商が自由に決めることができるのです。
「うちは身分証で本人確認する以外の方法は採ってない」というルールでも法律上は問題ないのです 3。
古物商は本人確認義務を怠ると、営業停止や許可取消の処分を受け、最悪の場合には懲役や罰金を科されるおそれもあります 4し、買取った商品を無償で返さなくてはならない事態もあり得ます(民法193条、194条、古物営業法20条を参照)。お店ができる限り確実だと思われる方法だけを選択するのも頷けるのではないでしょうか? 5
なぜ古物営業法で義務付けているのか?
では、なぜ法律で買取時に本人確認を義務付けているのでしょうか?
それは、中古品等の取引を把握可能な状態にすることで、窃盗などの犯罪を防止し、盗品を被害者に返還する手助けをするためです。
中古品や新古品などの古物を買取る時に「いつ、誰が、何を売ったのか」を正確に把握することができれば、誰が盗品を売ったのかすぐに判明します。そうすれば盗品を売って換金することが困難になりますし、盗品がどこにあるか調べて被害者の元に返すことも容易になります。
そこで、古物営業法では、古物商に、買取時に本人確認を行い記録を一定期間保管させ、盗品の疑いがあれば直ちに警察に通報するなどの義務を定めているのです。
お店で、身分証のコピーをするのも、きちんと本人確認したという証拠を残すことと警察に資料を提供するのを容易にするためでもあるわけです。
最後に
面倒に思ったり、形式が決まっていて厳格に思えたりする本人確認ですが、きちんと法律の根拠と理由があってのことだとお分かりいただけたでしょうか。
今回は、お店で面と向かって買取るときの手続を簡単に説明しましたが、インターネットで買取申込みする場合など非対面取引ではどのように本人確認すればいいのか?
下記の記事で解説しています。
下記の記事では本人確認義務のまとめをしていますので、参考になさってください。
◆脚注◆
- なお、本人確認によって個人情報を入手するために、一定の条件を満たす者は個人情報保護法など他の法律の義務を課されます。また情報漏洩があった場合には損害賠償責任を負うこともあります。 ↩
- 買取時に承諾書に記入したことがある人も多いかと思います。 ↩
- 法令に従った方法であればよいので、証明に使える身分証を限定する等の厳格な方法を採用したり、複数の確認方法を併用することも可能です。 ↩
- 「古物商の本人確認義務」の記事を参照 ↩
- 例えば、アルバイトが多く店員の入れ替わりの激しいお店であれば、どの店員でも一律・定型的に処理できるようにするため、本人確認の方法は限定されるでしょう。ただし、方法が限定されていると面倒になって取引をやめるお客もいるでしょうから、本人確認の負担をお店が負うかお客に負わせるかは、お店の戦略と言えると思います。 ↩