前回(中古品買取に身分証が必要な2つの根拠)と前々回(平成28年改正GK法との比較)の記事では、古物商が中古品を買取るときには相手方の住所・氏名・職業・年齢を確認する義務があり、お客と面と向かって買取するときは身分証の呈示などの方法で確認すると解説しました。
では、Webサイトや電話・FAXなどを通してお客と対面しないで買取を行うとき(非対面取引)はどうやって本人確認をすればいいのでしょうか?
単に身分証のコピーを送ってもらうだけでは違法となるので、正しい手順で行う必要があります。今回は非対面取引における本人確認の方法について解説します 1。
【追記】古物営業法施行規則の改正により、2018年10月24日以降は本人確認措置が追加になります。
法令で指定された方法は8つ。しかし…
非対面取引での本人確認方法は、古物営業法15条及び古物営業法施行規則15条に、全部で8つの方法が定められています。
確認方法 | 根拠条文 |
|
---|---|---|
1 | 電子署名を利用したメールの送信を受ける | 法15条1項3号 |
2 | 印鑑証明書及び登録印鑑を押印した書面の送付を受ける | 施行規則15条3項1号 |
3 | 本人限定受取郵便などを送付して到達を確認する | 施行規則15条3項2号 |
4 | 本人限定受取郵便などを利用して買取代金を送付する契約を結ぶ | 施行規則15条3項3号 |
5 | 住民票の写しなどに記載された住所に、簡易書留などを転送不要扱いで送付して到達を確認する | 施行規則15条3項4号 |
6 | 住民票の写しなどに記載された本人の名義の預貯金口座に買取代金を入金する | 施行規則15条3項5号 |
7 | 身分証明書に記載された住所宛に簡易書留などを転送不要扱いで送付して到達を確認し、合わせてその記載された本人名義の預貯金口座に代金を入金する契約を結ぶ | 施行規則15条3項6号 |
8 | 本人確認した者に対し、個別にIDとパスワードを発行し、送信を受けるなどの方法で、 本人確認済の者であることが分かる方法をとる | 施行規則15条3項7号 |
しかし、営業実態などに鑑みると一般的ではない方法もある 2ので、主に日本メディアコンテンツリユース協議会のガイドブックで推奨されている3つの方法と、2回目以降のお客さんに使える+αの方法を解説していきます。
【追記】マイナンバーカード付属の電子証明書を利用した本人確認サービスを提供している事業者も増えています。ただし、本サイトは他の特定の事業者やサービスを推奨するものではありません。
推奨される本人確認方法
1.本人確認書類のコピー+宅配業者の自宅集荷サービス 3
①売主から住所、氏名、職業、年齢の申出を受けた上で、
②運転免許証や健康保険証、学生証やパスポート、顔写真付のマイナンバーカード 4などの身分証明書等のコピーを送ってもらい、
③買取品を送付してもらう際に古物商が宅配業者に集荷サービスを依頼し、宅配業者が本人確認書類の住所で確実に集荷してもらいます。
④買取代金は本人確認書類の氏名と同一名義の預貯金口座に振り込みます。
⑤身分証明書等のコピーは、古物商が帳簿とともに保存します。
本人確認書類のコピー送付は買取品と一緒に送ってもらう形(例えば段ボールに買取品とコピーを入れる等)でも構いません。
ただし、書類と同じ住所で集荷することが必要ですから、売主が自分で宅配業者に集荷依頼をしたり、コンビニや営業所持込みをすることは認められません 5。
【具体例】
・買取申込み時または申込み後に本人確認書類のコピーを送ってもらい、記載の住所での集荷サービスを依頼
・買取申込み時の住所で集荷サービスを依頼、古物と一緒に書類のコピーを送ってもらい、住所の一致を確認
2.本人確認書類のコピー+簡易書留など 6
①売主から住所、氏名、職業、年齢の申出を受けた上で、
②身分証明書等のコピーを送ってもらい、
③身分証明書等に記載された住所に「簡易書留など」を「転送しない取扱い」で送付し、その到達を確かめます。
④買取代金は本人確認書類の氏名と同一名義の預貯金口座に振り込みます。
⑤本人確認書類のコピーは、古物商が帳簿とともに保存します。
「簡易書留など」には簡易書留・書留が該当しますが、配達先の相手方から受領印をもらい配達記録の残るものであれば宅配便など他のサービスでも構いません 7。ただし、ポストに投函されるもの(例:レターパックライトや特定記録郵便)など、対面配達ではないものは不可です。
「転送しない取扱い」は、差出人指定の住所以外で受け取ることを未然に防止するものです。郵便であれば宛名欄に分かりやすく「転送不要」や「転送不可」と書くだけで転送しない取扱いにできます。
「到達を確かめる」とは、郵便等を送るだけではなく、古物商自身が何らかの方法で到達したことを確認することです。暗証番号を送付して確認したり、送った書類に記載して返送してもらう等の方法があります。
【具体例】
・簡易書留で買取の査定結果を送付し、届いた旨を電話・メールなどで連絡してもらってから代金を振り込む
・受付番号を記載した受付票を送付し、買取の商品と一緒に送り返してもらう
・往復はがきで送付し、返送してもらう
・個別の識別番号を付けた段ボールなどの梱包キットを送付し、そのキットで買取商品を送ってもらう
3.本人限定受取郵便などを利用する方法 8
本人確認書類(身分証明証)の送付を受けずに本人確認することもできます。
①売主から住所、氏名、職業、年齢の申出を受けた上で、
②本人限定受取郵便などを送付し、
③その到達を確かめます。
この方法を採れば、売主とは別の名義人の預貯金口座に買取代金を振り込むことも可能です。
「本人限定受取郵便」とは、郵便に記載された受取人本人に限り、郵便物を受取ることができる配達サービスです。簡易書留等とは異なり、受取りの際に本人確認書類の提示が必要になります。同様に、本人確認書類の提示した受取人本人のみに配達するサービスであれば、他の業者のサービスを利用することもできます 9。
「到達を確かめる」方法は、上記の簡易書留を利用する方法と同じです。
2回目以降の売主限定:ID・パスワードの発行を利用する方法 10
これは単体で本人確認方法として使えるものではなく、対面あるいは上記の非対面での本人確認を行った者に対して行うものです。
本人確認を行った者に対して、第三者に漏れない方法でID・パスワードを送付し、WEBサイトで入力してログインすることで本人確認をします。
同じお客から2回目以降に買取をする場合や、本人限定受取郵便等を利用して本人確認とID・パスワードの送付を同時に行い、その後はWEB上で手続を行う場合などに利用できます。
なお、ID・パスワードによる本人確認を用いる場合であっても、本人名義の口座に買取代金を振り込む必要がある方法(簡易書留による確認など)で確認したのであれば、それ以外の名義人の口座に代金を振込むことはできません。ご注意ください。
最後に
非対面取引は売主にとって便利な方法であると同時に、なりすましや盗品の処分にも使われやすい方法と言えます。それゆえ法令で厳格な本人確認方法が指定されています。
手続が面倒だからと手順に従わないと、せっかく買い取った商品を無償で返還しなければならなくなったり罰則を受けるおそれもありますので、正しい手順を知り実行することが大事です。
下記の記事で本人確認義務のまとめをしていますので、参考にしてください。
ご不明な点、ご相談、ご依頼のある方はお気軽にお問い合わせください。(初回相談無料)
【松葉会計・行政書士事務所】
担当行政書士:松葉 紀人
お電話:(0863)32-3560
◆脚注◆
- 非対面取引はお客と対面せずに買取をする場合です。インターネットや電話で買取受付をしても、古物商がお客の自宅や事業所に赴いて買取をする場合は対面取引です。 ↩
- 例えば、電子署名とはいわゆる”インターネット上の印鑑”ですが、法律で定められた認定認証事業者が承認したものでなければならず、発行も有料なので個人で発行している方はわずかかと思います。印鑑証明書や住民票の写しの取得も面倒に思う方が少なくないでしょう。将来、マイナンバーカード付属の電子証明書が普及すれば、これらの事情は変わるかもしれません。 ↩
- 施行規則15条3項6号の解釈により認められている方法。 ↩
- 顔写真付のマイナンバーカード(オモテ面)は、身分証明証として使うこともできます(参照:内閣官房HP)。ただし、マイナンバーの記載されたウラ面のコピーやマイナンバー通知カードのコピーを身分証明証として使用することはできません。法令でマイナンバーの提供も収集も制限されているからです(マイナンバー法19条・20条)。対面取引ならばコピーを取る事業者が注意すればよいですが、非対面取引ではお客自身がコピーをするので事業者ができることには限界があります。お客さんが間違えないように分かりやすく説明するか、一律にマイナンバーカードの利用を禁止するかは事業者の判断に委ねられます。 ↩
- 宅配便業者の自宅集荷サービスを利用しない場合は、本人限定受取郵便など別の方法を併用しなければなりません。 ↩
- 施行規則15条3項6号。 ↩
- なお、原則として宅配便で見積書や領収書などの「信書のみ」を送ることはできません。ただし、梱包用資材など荷物の添え物・付属品として「封をしていない簡易な信書」を付けることはできます(郵便法4条3項但書)。宅配便を利用する場合はご注意ください。参考:総務省「信書に該当する文書に関する指針」 ↩
- 施行規則15条3項2号。 ↩
- 他社のサービスを利用する場合には、荷物と一緒に送る場合を除いて、「信書」を送付できるかどうか確認しておく必要があります。 ↩
- 施行規則15条3項10号。 ↩