商品を売るときに古い品物を引き取って値引きをする「下取り」は、車や家電量販店、テレビショッピングなど業界を問わず広く行われているサービスです。
しかし、下取りの方法によっては古物商(古物営業)許可が必要なことがあり、一つ間違えると無許可営業の罰則 1が科されるおそれもあります。
下取りに古物営業許可が必要な場合と不要な場合の基準と具体例について解説します。
下取りに古物営業許可は必要か否かの基準は?
古物営業許可は【古物の買取り】や【古物の交換】の営業をするための許可です 2。
盗難物などの換金・交換を防止するために、古物買取りを許可制にしているのです。
したがって、下取りが【古物の買取り】や【古物と財産権の交換】となる場合には許可が必要であり、【商品販売のサービスの一環】に過ぎないのであれば許可は不要とされています。
古物の下取りに伴い商品の値引きを行う行為は、「古物の買受けに伴う代金の支払い」ではなく「サービスとして行う値引き」に該当する限り、古物営業に該当しないと解されます。(警察庁「規制改革ホットライン検討要請項目の現状と措置概要(平成27年度分)」)
新品の販売に伴う下取り行為が、次の要件を全て満たす場合は、当該取引は「「サービス」としての値引き」に該当し、古物営業に当たらない。
(1) 形式的要件
下取りした古物の対価として金銭等を支払うのではなく、販売する新品の本来の売価から一定金額が差し引かれる形での経理上の処理が行われていること。
(2) 実質的要件
ア 下取りが、顧客に対する「サービス」の一環であるという当事者の意思があること。
イ 下取りする個々の古物の市場価格を考慮しないこと。
(平成30年6月18日警察庁丁生企発第392号「古物の下取りに伴う商品の値引きの古物営業該当性に係る質疑応答について」)
必要となる場合の具体例
下取りする品物の査定を行い、値引き額を増減させる場合には古物営業許可が必要となります。
例えば、中古品のメーカーや製造年月、型式や状態などによって値引き額を変える場合がこれに該当します。下取りする品物の価値に着目して価格を変えるのは、その品物の買取りに他ならないと考えられるからでしょう。
また、査定をしなくても、値引きではなく「クーポン券の発行」や「買い物に利用できるポイントの付与」をする場合には許可が必要となります。たとえ一律の金額であっても【古物と財産権の交換】に該当するからです。
不要な場合の具体例
下取りする品物の価格査定を行わず、一律の値引きをする場合には古物営業許可は不要です。転売目的で下取りする場合でも変わりません。
「電子レンジの下取りで一律1万円引き」「スーツ下取りで〇割引」などが該当します。
「古い品物があるから」「まだ使えるからもったいない」というお客に購買意欲を沸かせるためのマーケティング手法であり、品物の買取りとは言えないと考えられるからでしょう。
ただし、年式や型式でランク付けして値引き額を変える場合には一律値引きには該当せず、営業許可が必要となります 3。
参考:日本経済新聞電子版「ソフトバンク「スマホ下取り」見直し、古物営業法違反の指摘で 」(2012/9/25 23:00)
他に、査定をする場合でも自ら売却した商品を同じ相手から買い戻す場合も許可は不要です 4。買戻し特約付きの売買契約もこれに該当するため許可不要です。
不要である理由は、売却した相手からの買取りであれば盗品である可能性は低いからです。
値引き額が1万円未満でも許可は必要?
たまに誤解される方がありますが、値引き価格や発行するポイントが1万円未満であっても【買取り】【交換】に該当するのであれば古物営業許可は必要です。
買取価格や交換対価の額が1万円未満であれば本人確認は不要となります 5が、営業許可自体は必要です。
その他の許可が問題となることも
値引きではなく、商品の販売の際に古い品物を無償で引き取って持って帰ってくれる業者もあります。
「洗濯機をご購入の場合、現在お使いの洗濯機は無料で回収いたします」などのサービスがそうですね。
この場合、買取りではないため古物営業許可は不要ですが、廃棄物収集運搬業許可を要するかが問題となります。
原則として他人の廃棄物を回収して運ぶためには廃棄物収集運搬許可を受ける必要があります 6が、以下の要件に該当する「下取り」については許可不要と解釈されています。
新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要である(平成25年3月29日環廃産発第 13032910 号)
他にも、売却して利益が出る物(有価物)の無償回収であれば古物営業許可も廃棄物処理許可も不要です。
まとめ
下取りと古物商の許可について解説してきました。
古物営業許可が必要か否かは商品販売サービスの一環と言えるか否かが基準となると説明しましたが、実際には個別の取引事例ごとに判断することが必要となります。
また、下取りは広く行われる行為にも関わらず、古物営業法だけでなく廃棄物処理法など複数の法制度が交錯する行為で、うっかり違法行為をしてしまう危険性を孕んだものでもあります。
「うちは大丈夫かな?」と思ったら、放置せず警察や当行政書士事務所にご相談ください。
◆脚注◆
- 最大で3年以下の懲役及び100万円以下の罰金が科されます(古物営業法31条及び36条) ↩
- 古物営業法3条。 ↩
- 例えば「2010年製以降の品物に限って下取りします」など、下取り対象を限定する場合も古物営業許可が必要となる可能性があります。ただし、私見ですが、不用品(ゴミ)か否かを判断して、不用品に限って下取りを拒否することは許可がなくてもできると考えます。不用品は古物取引の対象とは言えないからです。 ↩
- 古物営業法2条2項1号後段。 ↩
- 古物営業法15条2項1号、古物営業法施行規則16条1項。 ↩
- 無許可営業には、最大で5年以下の懲役及び1000万円以下の罰金が科されることになっています(廃棄物処理法25条)。 ↩